第2回GBJ学生オピニオン・チャレンジ 受賞作品

【総評】

一般社団法人グリーンビルディングジャパン
学生オピニオン・チャレンジ審査委員長
平松 宏城

 

第2回GBJ学生オピニオンチャレンジを実施しました。今回は、「私たちのグリーンフューチャーをつくろう」というタイトルで、より幅広いテーマ設定を期待しました。結果的には、高校生の部は、脱プラスチック、香りを利用したメンタルヘルス対策、歩道・都市の緑化、屋上庭園という単一の、しかし重要なテーマに着目した提案が見られました。大学生の部は、子どもの未来に対する大人の責任、建物の管理者と利用者をつなぐポイントファンディング、空家対策と資源の有効利用、パブリック空間とプライベート空間の中間領域としてのコモン空間の価値づけ、認知症にまつわる課題を街づくりの観点から解決を探すというもので、異なる主体や離れた存在を有機的につなぐ仕組みづくりに関する提案が多く出されたのが特徴的でした。高校生大学生からの作品はいずれも意欲的なものでしたが、全員女性ということに驚きました。世界中でリモートワーク比率が高まることによって負担が増したといわれる女性が、ジェンダーギャップ指数120位の日本においてより先鋭的な危機感として表れているのか。背景にあるものを考えさせられました。グリーンビルディングの世界で、サステイナビリティ、ウェルビーイング、レジリエンスと並んで、それらのテーマと同等に大切とされているエクイティ(公平性)のアンバランスをどのようにしたら是正できるのか、そんな提案を来年は見てみたいなと思いました。

 

募集要項

 

【高校生の部】 

優秀賞

歩道を草原化するという提案 ~都会でも緑を近くに感じたい!~

お茶の水女子大学附属高校・普通科 2年
細川 結愛 さん

奨励賞

プラスチック依存症から脱却する

広島女学院高等学校 2年

川西 麻央華 さん

奨励賞

香りあふれる日本の新都市

Burnside High School  year12
楠 結衣 さん

奨励賞

建物緑化で世界旅行 -環境と人のための都市緑化-

東京都立国際高等学校国際学科 3年
大輪 香依 さん

 

【大学生の部】 

最優秀賞

環境春闘 -子どもと大人の本気交渉 で、地域を動かす

東京都立大学 都市環境学部 建築学科 一ノ瀬研究室 4年
塚原 彩 さん

優秀賞

行動を通じた都市への投資:GB ポイントファンディングの提案

お茶の水女子大学・人間文化創成科学研究科 修士2年

高田 亜弥 さん  

奨励賞

木の国の「宝の山」を未来へ

芝浦工業大学・システム理工学部・環境システム学科・澤田研究室 4年

武藤 綺羅 さん

奨励賞

コモン空間の拡大を起点とする豊かな都市の提案

東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 修士1年

小林 みなみ さん

 

 

【高校生の部】 


 

 

 優秀賞

 

歩道を草原化するという提案 ~都会でも緑を近くに感じたい!~

お茶の水女子大学附属高校・普通科

細川 結愛

1,はじめに
 現在の東京都市部には緑があまり見られない。これは、平成30年度の東京23区のみどり率(緑被+水面+公園内の緑被の面積割合)が24.5%と、都全体で見たときの52.5%と比べて約半分の割合であることが示している。実際に私は高校生になってから東京に通うようになったのだが、都会のビルの間を通行する度に閉塞感を感じ、たくさんのビルの威圧感に疲れを感じた。
 都会でもリラックスできるような空間が作りたい、近いところに緑を感じたいと思い、狭い都会でも緑を増やす方法を調べてみたが、ビルの密集地帯での緑化の方法として提案されるものは屋上緑化が中心であった。屋上緑化には建物の保護やヒートアイランド現象の緩和などの効果もあるが、ビルの下を通る人々の心を緑の力で癒すのには、視界にさえ入らないほどに遠すぎている。また、屋上緑化が義務的に行われ本来望まれる効果を発揮できていない場合も少なくない。
 そこで私は、人々が普段利用する歩道のスペースに植物を敷き詰めて緑化を進めることで、現在の限られた都会の緑地スペースを大幅に広げ、そこを通る人々が自然と緑を目にして明るい気持ちになれるような空間作りをしていくことを提案する。またさらに、これから述べていくような理由から、緑化に使用する植物として雑草を活用することを提案する。

 

2,提案の内容
 緑地面積を広げるのが難しいと考えられる市街地において、歩道のアスファルトを撤去して土を敷き、オオバコ、コオニタビラコ、キランソウ、スベリヒユなどといった背丈が低く地面にはりつくようにして生える種の雑草を生やす。生命力が強く、植え替えなどの管理コストが削減できて持続可能な雑草を活用し、一面に敷くことで緑化を進める。その際、通行がしづらくならないよう、ユニバーサルデザインの観点から、敷石を多く敷き詰める、または植生用のインターロッキングブロックを用いるなどして歩道を整備しつつ、草を踏みしめて歩けるような緑化を行う。必ず都会を往来する人々の目に入るようなくらい距離が近くて、ビオトープ作りにもなる緑化を行い、外的環境の面でも内的要因の面でも明るい雰囲気のある空間作りをする。

 

3,期待される効果
①生物多様性の保全
 生物の生育環境が減少し生物の住む環境が分断化されつつある都会で、歩道を数種類の植物が覆うことで特定の環境を好み、育った植生タイプの環境が自然に作られ、その果実や種子を食べる生物が集まり、独自の生態系(コロニー)が作られるため、都会のビオトープ作りをすることができる。数種類の雑草を植えることでそれぞれに合った、ある程度多様性に富んだコロニーを都会にも作ることが出来ると考えられる。また、人々がよく目にするような身近な場所で生物の住処を作ることで、通行人や住人に小規模ながらも自然や生き物を身近に感じてもらい、生態系や生物多様性を理解し、保護のために主体的に行動しようと思わせてくれるきっかけも作ることができると考えられる。
②内水氾濫の防止
 気候変動に伴って大雨が増加し、都会では地表がコンクリートやアスファルトで覆われて雨水が地表に浸みこまずに河川や下水道に雨水が大量に流れ込むことによって排水機能が麻痺して都会が浸水してしまう、内水氾濫は今後さらに増加すると予想されている。水を地中に蓄えることができ、丈夫な雑草の根がグランドカバーとなり土が流失しにくくなっている土壌を都市部に配置することで、大雨の際でも道路上の水を一時的に土に貯めて内的氾濫を防止することができると考えられる。雑草はある程度水がなくても生存し続ける能力(繁殖能力や適応能力など)が高いため、水を土壌に蓄えたり放出したりを行うことができ、雑草の土壌は小規模版の緑のダムとなり得ると考えられる。
③ヒートアイランド現象の防止
 アスファルトは反射率が低く熱伝導率も高いため、吸収した熱が深部まで届き多くの熱を蓄えやく、夜になっても熱を放出(顕熱)するためヒートアイランド現象の原因となっているが、地表を緑地にした場合は、植物や地表からの蒸発散によって発生する潜熱(気化熱)が地表の温度を下げ地中の熱伝導率や顕熱が小さくなり、地表の表面温度だけでなく緑地付近の気温も下げることができる。歩道の地表を緑化することで、都市全体のクールダウンだけでなく、歩道の地表の表面温度が従来のアスファルトよりも下がることで地表付近の気温が下がり、通行する人々により快適な夏を送ってもらうことが出来ると考えられる。
④景観改善
 歩道いっぱいに雑草を敷くことで、草原を都会のビルの間に作り、開放感の感じられる空間を巡らせることが出来る。都市では土地不足から屋上緑化や壁面緑化が主流になり、地上ですることができなかった緑化を、歩道スペースを用いて地上で行うことで、そこで生活する人々が感じることのできる緑が一気に増え、無味乾燥した景観に色が加わり、景観の改善につながると考えられる。
⑤リラックス効果
 森林浴のリラックス効果(状態不安の解消効果)をもたらす香りを総称するフィチンドットが、森林ほどではないが草原からも出されるとされている。歩道を歩く人々は人工舗装面のものよりもその効果で心を落ち着かせることができると考えられる。他にも様々な手法の科学実験によって観葉植物や森林、園芸などがリラックス効果を持つことが分かっているため、草原化した歩道も例外ではないのではないかと予想される。また、草原は上の②~④のような効果をもたらすため、人のストレス因子を取り除くことに貢献していることからも、ストレス軽減効果は有効であると考えられる。

 

4,懸念される注意点
・その強い繫殖力から雑草が歩道の外や敷石の上にまで伸びてきて邪魔になり、定期的に邪魔になった部分の除草作業が必要になると考えられる(特に夏季は毎日草刈りをしなければならないことが予想される)。また、土壌でもともとはいなかった丈の長い雑草が移り住み成長する可能性があるので、同様に定期的に地表から5㎝程度で切り落とすなど除草が必要になる。
・土壌から土が流れ出てぬかるみを作り、歩道としての機能を果たさなくなるのではないかという心配が生まれるが、雑草の根が土を掴み土はアスファルよりも水を吸収するため、水溜りができにくくなり、総合的に見れば水はけは改善されると考えられる。

 

5,おわりに
 雑草を活かした歩道の緑化を進めることを提案した。現在の都市は、ヒートアイランド現象や内水氾濫などの、急いで解決すべき課題をかかえていて、その解決に緑の存在は密接に関わっている。都会に緑を適切な形で増やしていく仕事は未来の住環境や労働環境を守るために急を要しているのだと感じた。そしてその緑は、森林や公園のみとして考えなくてよいということを、レポートを作成するに当たって学ぶことができた。
 私は、これを書き始める前から緑化に興味があり都市の環境を良くできる人になりたいと思っていたが、あまり真剣には最善策を模索するようなきっかけはなく、深く考えてこなかったので、都会の重苦しい雰囲気を打破できるのは樹林のみだという考えを信じ込んでしまっていた。最適な緑化方法を真剣に考え始めてやっと、背丈の低い草を使って緑化するというアイデアを思い付いた。今回は雑草に関しての論文をあまり見つけられず行えなかったのだが、今後の展望としては、雑草の持続力や蒸散量、土壌の保水力などを数値化して、与えられる効果の大きさを予想したり、適当な面積を計算したりできればよい。
 私たちの生活環境は想像もしなかった新型コロナウイルスの影響もあり、目まぐるしく変化している。人々が考えるべき大きな事柄が一つ増え、明るい都市環境の構築への関心が薄まったということもあるかもしれない。しかし、どんな状況下であってもまずは今ある課題に気づき、向き合って、後世まで引き延ばさずなるべく早く解決することがやはり重要だと思う。未来の課題は予想がつかないからこそ、現在の課題に今向き合うことが、未来の都市環境にとって一番いい行動なのだと考えた。ヒートアイランド現象や内水氾濫を止め、より明るく、リラックスできる都市環境を作っていくために、積極的に今ある課題に関わり、情報を収集して解決策を探ろうとすることは、自らの将来を決める時期にある私たち高校生に必要な動きなのではないかと感じた。
 私の提案した、雑草を用いた歩道の緑化案が、課題解決への一歩となれば嬉しい。

 

6,参考文献
(1)東京都 平成30年「みどり率」の調査結果について 2019/9/24 最終閲覧2021/9/8
(2)近藤三雄 都市緑化・屋上緑化事業の課題と展望 日本緑化工学会誌2003年29巻2号p.315-p.318 最終閲覧2021/9/3
(3)山川史郎 小学生の図鑑NEO②植物 2010年2月6日2版第12刷発行p.12-17,44-50
(4)日本コンクリート株式会社Product景観植生用ブロック(緑化ブロック)最終閲覧2021/9/5
(5)環境配慮型ブロック舗装について‐一般社団法人インターロッキングブロック協会  最終閲覧2021/9/5
(6)国土交通省都市地域整備局公園緑地景観課 都市と生物多様性-都市における緑地空間の保全,再生,創出及びネットワーク化. 2010年10月発行  最終閲覧2021/9/3
(7)中嶋 佳貴, 沖 陽子 都市型ビオトープにおける雑草植生を活用した緑化の評価 日本緑化工学会誌2017年43巻1号p.223-226 最終閲覧2021/9/1
(8)環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性戦略推進室 Eco-DRR_Leaflet_full.pdf p.18,19 2019年3月発行 最終閲覧2021/9/5
(9)鷲尾金弥 グランドカバープランツのガーデニングへの利用―ガーデニングではグラウンドカバーをどうとらえるか― 2000年29巻supplement2号p.27-38 最終閲覧2021/8/30
(10)横山 仁 環境問題と表面科学都市のヒートアイランド現象と緑 表面科学2015年36巻6号p.319-321 最終閲覧2021/9/7
(11)独立行政法人森林総合研究所 異なる自然環境におけるセラピー効果の比較と身近な森林のセラピー効果に関する研究 2011.12森林総合研究所交付金プロジェクト46 最終閲覧2021/9/7
(12)勝皆川,智子林,英国Someth 唾液アミラーゼによる都市公園景観のストレス軽減効果の評価 ランドスケープリサーチジャパンオンライン2012年第5巻77-84ページ 最終閲覧2021/9/8
(13)飯島健太郎 「緑と健康に関する研究の今後の展開」都市環境のストレスを改善する緑の役割 日本緑化工学会誌2009年35巻2号p.304-305 最終閲覧2021/9/8

 


 

 

 奨励賞

 

プラスチック依存症から脱却する

広島女学院高等学校

川西 麻央華

1.はじめに

 「プラスチック依存症」というワードを聞いて、思い当たる節がある人は多いのではないだろうか。人間の大半は毎日、プラスチックからできた何かを触っている。大量生産しやすい故に非常に安価であるため、1835 年に、フランス人化学者・物理学者のアンリ・ヴィクトル・ルニョー1 が塩化ビニルとポリ塩化ビニルの粉末を作成して以降、プラスチックは凄まじい速さで進化し、愛用されてきた。現在のような主に石油を原料とする合成樹脂が作られるようにな ったのは第二次世界大戦後。日本で広く流通するようになったのは 1960 年代以降。2  つまり、プラスチックは約 60 年でこの日本を支配したということになる。
 プラスチックに依存している日本人に対して、私はいくつかの提案をしたいと思う。人間がプラスチックを上手く「利用」する術として試す価値はあるのではないだろうか。

 

2.「なんとなく」の危機意識
 UNEP(国連環境計画)の報告書『SINGLE-USE PLASTICS』3 によると、プラスチックごみの廃棄量を人口 1 人当たりに換算するとアメリカが 45 ㎏で 1 位、そして第 2 位はなんと我が国日本で 32 ㎏なのである。その背景として、日本が「過剰包装大国」であることが挙げられる。このことは海外でも問題児されており、『plasticobsessedjapan』4 という、日本の過剰なプラスチック包装の写真を投稿する Instagram アカウントがある程だ。
 一番大事なのは、これに対して日本人はどう感じているか、ということであるが、消費者庁の調査によると、89%の人がプラスチックごみ問題への関心を示しており、約半数の人が「使い捨て小分け用容器や飾り」、「レジ袋」を過剰だと考えていることが分かった。5
 近年 SDGs やマイクロプラスチックという言葉が話題に上がることが多くなったこともあってか、日本人の危機意識も「なんとなく」高まってきていると言えるだろう。

 

プラスチックごみ問題関心度 世論調査
プラスチックごみ問題関心度 世論調査

 

3.持続可能循環型社会をつくる
 現状のペースでは、2050 年までに 250 億トン以上のプラスチックごみが発生し、海洋中のプラスチック量が魚の量と同等、あるいはそれ以上に増加すると予想されている。67 先程も述べた通り、日本人が危機感を持ち始め、すぐにでもプラスチックごみへの Action をしなければならない今がチャンスなのだ。
 その Action の内容として相応しいものとなるには条件があるのだ。「持続可能」もしくは「循環型」であること。プラスチックに関しては特に「大量生産・大量消費・大量廃棄」の考え方が染みついている。その固定観念からいち早く離れることが現代人には求められている。持続可能循環型社会の実現に向け、循環型社会と低炭素社会に向けた取り組みを展開することが重要である。

 

4.海洋プラスチックの回収
 プラスチックには寿命がないため、海に流出すると細かくなることはあるが、完全になくなることなく、そこに存在し続ける。この状態のプラスチックをマイクロプラスチックあるいはナノプラスチックと呼ぶ。私は 1 年前からプラスチック問題をテーマにリサーチをしたり解決策を考えたりしてきた。その中でまず最初に思いついたのが「プランクトン採集用ネット=ニ ューストンネットを用いたプラごみ回収」だった。一度流出して一生なくならないのなら、そのごみを出した人間が回収すればいいじゃないか。海の中に網を設置して回収してリサイクルすれば海洋プラスチック問題は解決するのではないか。マイクロプラスチックの定義は「直径5mm 以下のプラスチック」。そして、ニューストンネットの目合い(織目の細かさ)は約 0.3mm。 8
 実際に環境省がネットを使った採集調査を行っている。9 無論、 0.3mm 以下の微細片は採取できない。また、より細かい目合いのネットを作成する技術や 0.3mm 以下の物質を計量できる技術が現時点では無い。東京大学大気海洋研究所の道田豊教授 10 や九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授 11 宛てに私の案を提案したところ、どちらからも『かかるコストが莫大であり、労力に見合う成果はなかなか難しい』といったお返事を頂いた。水環境学会所属中央大学の西川可穂子教授 12 からは『海中のゴミはプラスチックだけではない。網にほかの大きなゴミが詰まってしまうと、本当に必要なプラごみが回収できなくなるリスクが大きい』とのお言葉を頂いた。さらに海洋プラスチックのリサイクル自体が困難であることがわかり、この計画は断念し、次の立案に移った。

 

5.包装容器から建築材を造る

 既述の通り日本は過剰包装大国であるが、世界的に見てもプラごみの原因第 1 位は「包装」によるもので、全体の 36%を占めている。13 私は当初の計画を変更し、包装容器をリサイクルして建築材を造る案を考えた。
 なぜ「建築材」なのか。ここでも SDGs がカギとなってくる。SDGs とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、私の考える持続可能循環型社会とぴったり結びつくのだ。
 SDGs の最初の目標は「貧困」である。世界で極度の貧困状態(1 日あたり 1.90 米ドル以下)で暮らしている人は 7 億 960 万人、そのうち約半数が子どもで、3 億 5600 万人に上るとされている。14 今回造ろうとしている建築材はいわゆるレンガのようなものを想定していて、最大のポイントは子どもや女性でも簡単に組み立てられるという所だ。つまりこの建築材を取り扱うのは「貧しい子どもと女性」であり「大人の職人」ではない。また、建築材として取り扱いが難しいと、時間もコストもかかる。あえてシンプルで誰でも組み立てられるものをつくり、現地のストリート・チルドレンなどに建物を建ててもらい、給料を出す。そうすることで、プラごみ問題の改善⇒貧困問題の改善⇒子供の発育環境と生活水準の向上と連鎖させることができる。今の世代の生活水準は次の世代に大きく影響する。もし今を生きる人たちの生活の質が上がれば、必然的にその子ども、そのまた子どもの時代になっても質がキープされ、永久的にポジティブサイクルを生むことができる。
 こういった理由で私は建築材を造るというプロジェクトを考えた。

 

6.プラスチック仮設住宅
 とはいっても、貧しい人たちの建物を建てるなんて、今すぐにできることではない。輸送コストが尋常でないだろう。ましてやこのコロナ禍の今、海外に対してオフラインで何かをすることは難しい。そこで、国内でできそうなことにまず絞ってみることにした。
 平成 30 年 7 月豪雨(通称:西日本豪雨)を覚えているだろうか。私の住んでいる広島県では、土砂崩れや浸水などの被害が相次ぎ、県の住宅被害は 19 日までに 38,000 棟に及んだ。15あれから 3 年が経った。中国地方や愛媛県内の被災地では、今も 1000 人以上が仮設住宅などでの生活を余儀なくされている。16
 この仮設住宅にもプラスチックが使われている。2013 年建築家の坂茂氏とプレハブメーカーの大和リースは仮設住宅の新システムを発表した。圧倒的な住宅需要と職人不足が浮き彫りになった東日本大震災(2011)の反省を活かし、FRP(繊維強化プラスチック)を屋根、壁、床のすべてに使うことを決めた。17 この住宅需要、職人不足の両方をプラスチックレンガで解決できるかもしれない。家族の人数に応じて決まった数のレンガを渡し、簡単なレクチャー動画を視聴してもらい、自分の家を自分で作るというシステムが整えば、問題を解決できる上に、プラごみ問題の改善にも繋げられる。もし仮設住宅が必要でなくなったときは解体してまたリサイクルすれば持続可能な仕組みになるだろう。

 

7.ファストファッションの出現
 あまり知られていないことだが、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)は、環境汚染産業として、 1 位の石油産業に次いで 2 位に繊維・アパレル産業を挙げた。国連環境計画(UNEP)の Elisa Tonda 消費生産課長は「グローバルファッションの生産は、世界の温室効果ガス排出量の 8%を生み出しており、製造部門がアジアに集中する中で、この業界は主として無煙炭や天然ガスで作られた電気や熱を利用しています。これまでどおりのアプローチを続ければ、業界からの温室効果ガス排出量は、2030 年までに 50%近く増大すると見られる」と語った。18
 ファッション産業は、世界で 2 番目に水を多く消費する産業だ。木綿のシャツを 1 着作るのに、約 2650 リットルの水が必要となる。これは、1 人の人が 3 年半飲める量に相当する。ジーンズを 1 本作るのに、約 7600 リットルの水が必要となる。これは、1 人の人が 10 年飲める量に相当する。また、生地の染色は、世界で 2 番目に大きな水の汚染源となっている。染色の過程で汚染された水が、水路や川にそのまま流されるからだ。その染色に必要な水は、1 年間でオリンピックの競技用プール 200 万杯分だ。あなたが今着ている服はどれほどの水を使って生み出されたのだろうか。
 国内における供給数は増加する一方で、衣服一枚あたりの価格は年々安くなっている。ファ ッション業界も「大量生産・大量消費」の傾向が加速している。何故なのか。理由の一つが「フ ァストファッションの普及」である。その結果、一年間で服を約 18 枚購入し、約 12 枚手放すことになる。一年に一回も着られない服は約 25 着もある。19 ファッションは誰もが楽しむべきものだが、楽しみ方を間違えると、自分たちの住んでいる地球の寿命を縮めてしまうことをよくよく覚えておかなければならない。

 

8.サスティナブルファッション×ファストファッション
 ファストファッションの対義語はもちろんスローファッションである。その代表例としてサスティナブルファッションがある。『衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した』フ ァッションのこと。
 それならば、全員がサスティナブルファッションを取り入れれば問題はなくなりそうだが、それが難しいのである。問題のファストファッションの最大のメリットは大量生産故の「安さ」だ。一方サスティナブルファッションは半袖 T シャツ1 枚で 1 万円を超えることもある。これを聞くと、いくら環境にやさしい服を買おうという意思があってもなかなか行動に移せないのも納得できる。
 そこで私は考えた。サスティナブルな製品を比較的安価で購入できる仕組みを作ればいいのではないか。価格が抑えられれば少しはサスティナブルファッションに挑戦しやすくなるのではないだろうか。
 今現在私は地元広島のプラスチックリサイクルを行っている会社に材料を提供してもらい、それを用いてイヤリングなどのアクセサリーを作成するプロジェクトを進めている。もし実際に商品として売り場に並ぶならば、プラスチックという「ごみ」が「価値のあるもの」に変わる。それが人々の手に渡り、誰もが簡単にファッションを楽しみながら環境を守ることができるようになることが私の今の願いである。

 

9.さいごに
 現時点での目標はリサイクルプラでアクセサリーを作ることだが、最終的にはプラスチックレンガを造って世界を巻きこんだ持続可能な取り組みをしていきたいと考えている。自分が何かしらの Action をしようとしても簡単にはできないことを知った。これから求められることは、世界の人々が Action を起こせるような仕組みを作ることだと思う。五輪開催国として、日本は世界中から注目を浴びた。そんな国が今、何もせずに立ち尽くすなんてことがあってよいのだろうか。私の子どもの世代が苦しむことなく生きていけるように、今こそ「大量生産・大量消費・大量廃棄」から「持続可能」へパラダイムシフトするべきなのではないだろうか。

 

 

UNEP Single-use Plastics: A roadmap for Sustainability
Cumulative plastic waste generation and disposal

 

 

参考文献
1. Wikipedia アンリ・ヴィクトル・ルニョー
2. Wikipedia 合成樹脂
3. UNEP Single-use Plastics: A roadmap for Sustainability

4. plasticobsessedjapan
5. 消費者庁 プラスチックごみ問題意識調査
6. Cumulative plastic waste generation and disposal
7. The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics

8. Wikipedia プランクトンネット
9.  環境省 海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組

10. 道田豊教授
11. 磯辺篤彦教授
12. 西川可穂子教授
13. UNEP Single-use Plastics: A roadmap for Sustainability

14. SDGs CLUB
15. Wikipedia 西日本豪雨
16. NHK 西日本豪雨から 3 年 今も 1000 人以上が仮設住宅などで生活

17. alterna 仮設住宅の新システム
18. United Nations UN News
19. 環境省 サスティナブルファッション

 


 

 

 

 奨励賞

 

香りあふれる日本の新都市

Burnside High School

楠 結衣

初めに 

 私は利用する全ての人が居心地良く感じる都市づくりを提案する。私は普段ニュージーランドの高校に通っていてホームステイをしているので、日本食を食べる機会はほとんど無い。だが、この前スキートリップに行った時に、宿の方が日本人で久しぶりに日本食を食べることができた。朝起きてキッチンから漂うお味噌汁やご飯の炊ける匂いが、日本での朝の風景を思い起こさせて、とても懐かしくて心地良い気持ちになった。他にもキャビンの木の匂いやお風呂の匂いなど、いつもの家の匂いとは違い自然の香りがしてとてもリラックスすることができた。普段はあまり意識しないが、懐かしい匂いや好きな匂いを嗅いだ時に、リラックスできて気分が良くなるのが不思議だった。そこで、私は香りと人間のストレス軽減やリラックスに関係があるのか疑問を持った。

 都市を持続可能にするには様々な方法があるが、その中でも今回は都市に住む人のメンタルヘルス、ストレス軽減について注目していきたい。持続可能な社会とは、「地球環境や自然環境が適切に保全され、将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現在の世代の要求を満たすような開発が行われている社会。」*1と定義されている。私は人間が地球上で持続可能に長く生きていくためには、地球の環境も大事だが人々のメンタルヘルスも重要だと考える。メンタルヘルスケアをしっかり行うと個人、企業共に生産性や企業価値を向上させられることで、より持続可能な、地球に優しい都市を作ることが可能になるのではないか。今、コロナウイルス感染症の影響により、外に出る機会が減ったり、他人とのコミュニケーションをとる頻度が減り、生活の中でストレスを感じる人や不安を感じる人の数が急激に増加している。このレポートでは、コロナウイルス感染症による人々のストレスや不安が増加しているのを踏まえて、香りと人間のストレス解消やリラックス効果の関係を調べ、私たちが普段使用している都市での活用法を提案する。

 

新型コロナウイルスによって起きたストレスや不安感の急増

 

 初めに、コロナウイルス感染症による人々へのメンタルヘルスの影響について調べた。コロナウイルス感染症の拡大も相まって、今、日本の都市でストレスを感じないで生活できる人はとても少ないだろう。ストレスや不安は誰もが抱えているものだが大きくなりすぎると危険な病気になる可能性もある。この図1は2020年8月から9月にかけて行われたストレスに関する調査結果だ。”コロナウイルス感染症に関わるメンタルヘルス全国調査”によると、約8割の人が新型コロナウイルスに対してストレスを感じていることが分かった。その中でも約4割はとてもストレスを感じると答えた。全くストレスを感じなかった人は僅か2パーセントに留まっており、ほとんどの人がストレスを感じながら生活していることがわかる。このようなストレスの主な原因はコロナウイルスに感染する恐怖、自粛要請で外に出られずに起きる孤独化、他人との関わりの減少、経済的な不安などが挙げられる。

 

 

 また、KFF(世界の健康政策における米国の役割に焦点を当てた非営利団体)*2がデータを分析して作ったこの表からコロナウイルスのパンデミックが原因で不安障害や鬱を持つ人が増えたことも分かっている。このグラフは不安障害とうつ病を持つ人の人数を2019年の1月から6月までと、2021年1月で比較したものだ。アメリカでは2019年、不安障害または鬱を持っている人は10人のうち約1人だったのに比べ、2021年の調査では10人の内約4人と約四倍に増えているのがわかる。これらのリサーチから近年、新型コロナウイルスの拡大を相まって不安や鬱、ストレスを感じる人は急増していて、現代を生きる私たちにとって無視できない社会問題だと言える。その一方、これらの問題を改善することができれば、私たちの都市を持続可能にするための大きな一歩を踏み出せると思う。

 

⾹害 

 香りとストレスや不安との関係性を調べているうちに、日本には香害と呼ばれる公害があることを知った。香害とは、柔軟剤や洗剤、化粧品など香り成分が含まれた製品によって健康被害が生じることだ。人によってどんな合成香料に反応を起こすかは差があるが主な症状は頭痛、全身倦怠感、不眠、便秘等がある。Shabon*3 が行ったインターネット調査では「人工的な香りをかいで、頭痛・めまい・吐き気などの体調不良を起こしたことがある」と答えた人は5割を超えていた。また人工的な香りを長続きさせるためにマイクロカプセルが使われることもある。プラスチックでできているマイクロカプセルは人への影響だけではなく環境にも悪影響を与えている。添加物を加えて人工的な香りを作り、マイクロカプセルで香りを長続きさせるのは人と環境、どちらに対しても適していないのではないだろうか。

 

 

 ”香害をなくす連絡会”が行った香害対策に関する調査では”柔軟剤などの家庭用品へのマイクロカプセル使用禁止”(87%)、”メーカーの香り付き製品の販売中止、開発中止”(77%)、”職場、学校、乗り物、飛行機、店舗、医療施設などでの香り自粛”(77%)などの対策が求められている。香りにはストレス軽減やリラックス効果などがあるが、その一方で人工的な香りには多くの人に健康被害が生じることもあるとわかった。だが、私が提案する香りの使用方法は、香害を防ぎながらも香りがもたらすメリットはそのまま使うことができる。

 

⾹りの⼒ 

 誰もが抱えるストレスや不安を軽減できるように、私は香りの効果を公共の場で活用することを提案する。嗅覚は五感の中でも、古代から存在する原始的な感覚器だ。香り、すなわち嗅覚は五感の中で唯一情動に直接伝わる感覚である。現代の生活は目と耳からの情報が圧倒的に多く、脳の中で知性や理性に関わる「大脳新皮質」という部分だけが過剰に稼働している状況になる事が多い。例えば、電車に乗っている時でもほとんどの人が携帯電話を使用していたりイヤホンで音楽を聴いていたりと目と耳からの情報を多く取り入れていることがわかる。そうすると、感情や情緒を掻き立てる感覚が乏しくなり、脳の活動のバランスが悪くなるため、肉体的な疲労だけでなく、イライラやストレスといった精神的な疲労をともなうようになる。*6 しかし嗅覚の情報は視聴覚の情報と違い、大脳新皮質を経由せず本能的な行動や感情、直感に関わる大脳辺縁系にダイレクトに届くため、香りを嗅ぐと何の香りかを判断する前に感情が動く。そこから、香りは視床下部という体の生理機能をコントロールする部分へ伝わり、自律神経、免疫系、ホルモン系の働きのバランスをとることで、心身へ影響をあたえるといわれている。そのため香りは脳を活性化し自律神経も整えられる、ストレスや不安を軽減するにはうってつけなアプローチだ。

 

⾹りの活⽤⽅法 

 香りはいつでもどこでも感じることができるため、体に対する香りの影響はとても強い。そのため、いつも居心地が悪い香りを嗅いでいるとリラックスもできず日々に支障きたす。一方、いつも自分が心地よいと感じられる香りを嗅いでいると、心地悪い香りを嗅いでいるときよりもストレスを感じずリラックスでき、仕事や勉強のパフォーマンスが向上するほか日々のモチベーションや集中力、さらに記憶力まで向上させることができる。ただ、私は日本の都市で街を歩いているときに心地いい香りがするな、と感じたことはほとんどない。だが駅や人混みの中で他人の汗の匂いやゴミの匂いなど不快な匂いを感じることは多々あった。

 今、電車の中や駅など公共の施設などでの香害が問題視されている。そこで私はこの力強い”香り”の力を日常生活、公共の場で活用でき、さらに香害も引き起こさず都市を利用する全ての人にメリットになるような香りの使用方法を提案する。私が提案する香りの活用方法は3通りある。

 嗅覚の働きを活用するのには一つデメリットがある。それは人間は香りに慣れやすいことだ。同じ匂いを長く嗅いでいると嗅覚が順応して匂いを強く感じられなくなるのは自然なことだ。だが、嗅覚は嗅覚疲労が起きやすいのと同じくらい回復もしやすい。そこで香りに慣れてきたと感じたら一度違う匂いでリセットすることが必要だ。そうすると、また同じ香りを嗅いでも香りを新鮮に感じられ効果も衰えない。一度違う匂いを嗅ぐときはコーヒーの香りやお茶の香り、風の香りなどでも十分なので簡単にできる。

 

提案1、⼩型デフューザー 

 一つ目の活用方は一人一人が自分の好きな匂いを嗅げる持ち運び可能な小型デフューザーだ。ストレスや不安など一人一人に違う悩みがある為、個人が求める心地よい香りは人によって違う。私が提案する小型デフューザーは香りがあまり遠くに広がらず、自分一人で嗅げるため、自分が心地よいと感じる匂いを選んで使用することができる。そのため周りの人と心地良いと感じる匂いが違う場合でも、周りに迷惑にならず自分だけで匂いを嗅げる。小型で持ち運びが可能なためオフィスの机や学校の机、さらに移動中の車の中や飛行機の中でも使用可能なコンパクトなものだ。いつも持ち運べるため安心できるし、ストレスや不安を感じたときにいつでも取り出して匂いを嗅ぎ、リラックスすることができる。タバコや大麻などで一時的に心地良くなろうとする人もいるが、それらの物は中毒性が極めて高く健康的な面から見てもメリットはない。しかし香りは中毒性もな、く精神的にも肉体的にもリラックス効果があるため安心して誰もが使える。この図1は私が提案する小型ディフューザーの具体的な使用例だ。顔に近いところにあるイヤホンやアクセサリー、帽子などにデフューザーの機能を搭載すれば誰でも身につけやすく匂いも嗅ぎやすいと考えた。また少しの香りで鼻まで届くためエネルギーを多く使わなくてすむし、他の人に自分の香りが届くこともない。

 

提案2、空気の循環 

 2つ目の提案は常に空気が循環する空間を作ることだ。香りを長続きさせたいからと言って換気をしないと空気中に含まれる汚染物質が溜まり、場合によっては増えてしまう。また新型コロナウイルスも空気感染するため換気することは非常に大切だ。そこで部屋の空気を絶えなく循環させ続ける方法を探したところ、航空機の機内は常に空気が一定の方向に流れており約3分で機内の全ての空気が入れ替わることがわかった。*4 客室内では空気は常に天井から供給され、左右の壁の下部から床下へ流れており、客室内や特定の場所に滞留することはないという。空気が天井から下部に流れるのであれば、自分の周りの空気が他の誰のスペースにも介入せず外部に放出されるため、小型デフューザーを使っても自分のスペース内で香りを楽しめるため他の人に迷惑はかからない。さらにIATA(国際航空運送協会)は「航空機内では感染リスクが低い」と発表している。この飛行機の機内で使われている空気の循環方法を電車やバスの中やビルの中、教室やオフィスなどでも使えないだろうか。

 

*5
*5

 例えば、この図2は既存の貸し会議室(FORUM8)が推薦している換気方法だ。窓が二つあるためひとつしかない部屋と比べれば空気の移動は多いが、それでも部屋全体の空気が常に循環しているとは言えない。部屋の角の部分などは空気が停滞してしまう。この空気の流れは空気を横に流しているため、空気の出入り口が限られてしまうが、空気を天井から床下に流せば窓の数に関係なく空気循環ができるのではないか。

 

提案3、天然⾹料の使⽤ 

 最後の提案は天然香料を使うことだ。合成香料は自然な香りに近づけるため同じ芳香物質を含む植物からその芳香物質だけを取り出し匂いを作っているので、これまでにあげたストレス解消やリラックスなどの効果には期待できない。また香害の主な原因は合成香料に含まれている化学物質で、私たちも気づかないうちに皮膚は化学物質を吸収してしまう。これらの理由から、香害を出さずに香りのメリットを最大限利用するには天然香料が適切だと考える。また天然香料には空間に対して抗菌や抗ウイルス作用がある為、新型コロナウイルス対策にも適切だ。例えば、ユーカリはマラリアの治療薬として使用されていたり、ティートリーは優れた殺菌作用で傷薬として使われている。だが天然香料は産地や時期によって香りが安定しないというデメリットもある。天然香料を効果的に使う方法を二つ提案する。一つ目は、提案1の小型デフューザで使うことだ。自分の好きな香りを嗅げてどこにでも持ち運べるというメリットがある。二つ目は、提案2の空気の循環をする際に天然香料の香りをつけることだ。この方法は大きな空間に香りをつけられるため、小型デフューザーを使うよりも大勢の人に効果があり、その場所を使う人皆が利用可能だ。だが、個人の好みに合わせて香りを選ぶのではなく大衆が好む香りを使わなければならない。その一方大きな空間、例えば駅や空港、図書館や美術館などに香りをつけると、利用する人の印象を操作できるかもしれない。例えば、ヒノキの香りは落ち着いていて森林用をしている気分になれるので図書館にピッタリだし、空港ではお香などの和の香りを使うと訪れた人がすぐに日本の空気を味わえる。このように都市に香りをつけて訪れた人々に良い印象を抱いてもらうことも可能になると思う。

 

終わりに 

 このエッセイを通して、今まであまり目を向けてこなかった香りの力を良く理解することができた。また、これまで以上にメンタルヘルスの重要性、持続可能な都市の必要性を感じた。地球環境のためにも、地球に住む者達のためにも、私たちが住んでいる都市から変えていけることを願う。コロナ禍によりメンタルヘルスが問題化している今、持続可能な都市を作るためにも、まず都市に住む人々のメンタルヘルスに目を向けてみてはどうか。私のアイデアを実用すれば、都市を使う全ての人のメンタルヘルスの向上、ストレス軽減、リラックス効果が期待でき住む人に優しい都市にできる。そして将来、世界の他の都市とは違いユニークな、新しくてクリーンな日本の都市を作ることも可能だ。

 

参考⽂書 

https://www.toyoink1050plus.com/sustainability/about/ *1

https://www.kff.org/coronavirus-covid-19/issue-brief/the-implications-of-covid-19-for-mental-health-and-substance-use/ *2

https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/035599.html

https://www.shabon.com/kougai/ *3

https://www.ana.co.jp/group/about-us/air-circulation.html *4

https://www.forum-8.co.jp/covid19-protect-ventilation-ver *5

https://www.yomeishu.co.jp/health/3958/ *6

 


 

 奨励賞

 

建物緑化で世界旅行 -環境と人のための都市緑化-

東京都立国際高等学校国際学科

大輪 香依

1.日本と世界の現状
 世界中で猛威をふるう新型コロナウイルスの影響で国外への旅行は大きく制限されている。日本国内では、驚異的な高齢化が進んでおり2036年には3人に1人が65歳以上の高齢者となる1)。そんな中、高齢者の社会的孤立が課題となっている。環境面では、ヒートアイランド現象や気候変動が深刻化し、それらに対応できる持続可能な都市へのニーズが高まっている。ヒートアイランド現象の緩和や省エネルギーの効果が見込める屋上や壁面緑化の面積は、日本全国で年々増加している2)が、未だに都市圏の大部分はグレーインフラに覆われており、まだまだ不十分である。今後大規模な緑化面積に増やし、人の心を引き付けられる魅力的な場所にしていく必要がある。
国際連合の報告書によると、世界では新興国を中心に都市化が急速に進んでおり、2050年までに68%の世界人口が都市に住むことになる3)。都市人口の増加は高い賃金や豊富な就労機会の都市への集中に起因している。都市人口が増えれば、より一層、都市における環境への配慮や人々のウェルビーイングへの注目が高まることが予想できる。

 

2.海外旅行をより多くの人に ―グローバルガーデン―
 高齢化、新型コロナパンデミックにより人々が思うように海外渡航ができないという現状と、高齢者の社会的孤立やヒートアイランド現象、気候変動などの問題を踏まえて、高齢者や体の不自由な人でも日本の都市の中で海外旅行のような体験ができるグリーンスペースを造ることを私は提案する。都市圏のビルを所有する企業に協力を依頼し、屋上やバルコニーなどのスペースを活かしてグローバルガーデンを造ることで様々なメリットが得られる。一つ一つのビルが世界中の異なる国をテーマにした庭園を持ち、人々はそこで世界の庭園の景色を眺めるだけでなく、その国の料理や文化を実際に体験できる。国内にグローバルガーデンを創り出すことで緑化のメリットと海外旅行の楽しさが得られ、一石二鳥である。平日にはビルの中で働く人々が休憩時間に屋上のガーデンに行きリラックスしたり窓からバルコニーのガーデンを眺めながら仕事をしたり、休日は一般客に開放することで、誰でも都市にいながら自然を感じ、エキサイティングな体験ができる。そしてこれはヒートアイランド現象や気候変動の緩和にも役立つ。つまりこれは環境と人、両方のための都市緑化なのだ。
 世界には多種多様な庭園があり、それぞれに個性や良さがある。例えばフランスのヴェルサイユ宮殿の噴水庭園は左右対称を意識しており、上から見ると芸術的な一つの絵のようになっている。日本にこれを再現した屋上庭園を造れば訪れる人の目を楽しませられるだろう。またアメリカアリゾナ州の砂漠植物園を日本で再現すれば、普段目にしないような変わったサボテンを見て、エキゾチックな雰囲気を味わうことができるだろう。これらの視覚的な楽しさだけではなく、その国の料理や文化を実際に体験できるような空間にすることで参加型のテーマパーク的楽しさも提供することができる。また、世界の庭園から気候変動やヒートアイランド現象緩和に効果的な知恵を学び、発展させてグローバルガーデンに取り入れることで持続可能な都市づくりに貢献できると考える。

 

3. 日本の伝統的知恵を世界に ―屋上日本庭園―
 もう一つ提案したいのは、世界の都市化の流れに乗っ取って、世界中の都市に日本庭園を作り出すことだ。気候変動により近年異常気象が世界各地で頻発し、問題となっている。もともと雨の多い日本では、数々の豪雨に対応した建築が生み出されてきた。その一つ、枯山水庭園は「総雨量で430ミリが降っても貯水できる機能がある4)」。豪雨の際には一旦雨を蓄え、ゆっくりと流していくことで洪水から都市を守る雨庭として、普段は人々に癒しを与える空間として、非常に優秀な庭園なのだ。このような日本庭園に見られる知恵を発展させ、ビルが次々と建てられていく新興国の都市の中に取り入れることができたら、新興国で暮らす人々の健康、環境問題解決、日本への注目度向上に貢献できると考えられる。屋上日本庭園には治水効果のある枯山水や遊水地、茶道を体験しながら抹茶や和菓子を楽しめる東屋、風流を感じさせる鹿威しなどを設置する。グローバルガーデンと同じように都市圏のビル所有者の協力を得て屋上に庭を造り、平日はビルで働く人々、休日は地元の人々が利用できるようにする。

 

4. グローバルガーデンと屋上日本庭園に期待できる効果
 この章では、先に述べた2つの提案のメリットを具体的に4つの項目に分けて説明する。
①都市に住む人々のウェルビーイング向上
人間はバイオフィリア(biophilia)という、自然や動物、植物などの生き物とのつながりを求める本能的要求を持っている。というのも過去600~700万年の歴史で99.99%以上の時間を人間は自然の中で過ごしてきたからである5)。そのため、開発が進み人工の建造物が多くなった今でも、生物多様性をもつグリーンスペースは人間にとって必要不可欠な存在だ。グリーンスペースは人々のストレスを軽減し、やすらぎを与える。その上、身体的健康への良い効果も認められており、森林の中で時間を過ごすと腫瘍や感染と戦うナチュラルキラー(NK)細胞が増え、免疫力が高まる6)。実際にアジアで最もグリーンな病院、Khoo Teck Puat Hospital(シンガポール)では、自然に囲まれている方が患者の回復が早かったという報告がされている。グローバルガーデンと屋上日本庭園は総じて都市に住む人々のウェルビーイング向上につながる。
②ヒートアイランド現象と気候変動の緩和
都市の気温が周囲よりも高くなるヒートアイランド現象の主な原因は、草地や森林等の植生域からアスファルトやコンクリート等の人口被覆域への土地利用の変化と、冷暖房の利用や自動車の走行などに伴う人工排熱である。植生域は、アスファルトやコンクリート等による人工被覆域と比べて保水力が高く、植物の蒸発散により地表面から大気へ与えられる熱が少なくなるため、主に日中の気温の上昇が抑えられる。人工被覆域は、熱を蓄積しやすく、暖まりにくく冷えにくい性質があることから、日中に蓄積した熱を夜間になっても保持し、夜間の気温の低下を妨げる7)。建物緑化により、コンクリートジャングル化している都市を緑で覆うことで蒸発散による冷却効果と熱蓄積の防止が実現され、冷房の使用による人工排熱の減少が見込め、ヒートアイランド現象の緩和につながる。
2020年10月26日、菅義偉内閣総理大臣は気候変動問題解決のため2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを宣言した。私が提案するグリーンスペースでは有機廃棄物を堆肥化した土を使うことでカーボンニュートラル実現にも一役買う。食料廃棄物やごみとして捨てられる公園の落ち葉を堆肥化することで、有機廃棄物の埋立によって発生する温室効果ガスの一つ、メタンの排出を抑えつつ、栄養分に富んだ土をつくることができる。ポール・ホーケン著『ドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』では、堆肥化をごみが宝になるようなものだと言っているほどだ8)
③レクリエーションと生きがいの提供
 都市緑化が環境、人々へ良い影響をもたらすことは周知の事実だ。しかし施行や管理の際にかかる費用や面倒からあまり積極的には行われていない。緑化をより魅力的なものにすることで多くの人が建物に緑地を取り入れるようになると考えられる。世界各国の様子を再現した庭園であるグローバルガーデンは海外旅行をしているような気分になれるという魅力がある。そしてその国の特徴を活かした食や文化の体験を提供することで訪れる人々にレクリエーションを提供できる。屋上日本庭園も同じ方法で世界の人々にレクリエーションを提供する。
 高齢化が進む日本において、高齢者が安心して行ける、社会との繋がりを持てる場所を創ることは高齢者の生きがいという観点で大きな意味を持ち、高齢者の社会的孤立への対策となる。ビルの屋上やバルコニーを利用したグローバルガーデンは、長距離移動や体力への不安から海外旅行を敬遠する高齢者や体の不自由な人々も含めた全ての人が楽しめる場所になると考えられる。また、グローバルガーデンの手入れに関して地元の高齢者も積極的に採用することで、働く意欲がある高齢者に雇用機会を与えることができる。私自身都立公園で植物の手入れをするボランティアに参加しているが、ボランティアをしている方々の多くは退職後、自分の趣味や経験を生かし地域に貢献するとともに、社会とのつながりによるやりがいを得ている。ボランティアの方々は皆はつらつとして健康的で、素敵に年を重ねていっているのが印象的であり、このような機会をより多くの場所で退職後の元気な高齢者に提供できたら、高齢者にとっても社会にとってもプラスになる。
④日本への国際的注目の高まりから得られる経済効果
 少子高齢化で経済が衰退する日本を救うのは日本庭園の存在かもしれない。「海外の日本庭園は、その数500以上(公開庭園)にのぼり、9)」沢山の人々が訪れている。なぜこれほど多くの日本庭園が海外で作られているかというと、海外の人々にとっては、日本庭園が新鮮で魅力的に映るからだろう。庭園というのは元々、都市に自然を取り入れる芸術である。日本庭園は西洋の人工的で華やかな庭園と異なり、自然を基調としている。これが訪れる人々に癒しを与える。先に言及したように人間は非常に長い間自然の中で生きてきた。そのため生まれた国に関わらず、全ての人々が自然を求めており、自然の中に身を置くことで、目まぐるしく進む都市生活の中で蓄積した心身の疲れを癒すことができる。現在海外の日本庭園は先進国に多く集中しており、特にアフリカの新興国にはその数が極端に少ない。今後開発が進む新興国のビルの屋上を利用して日本庭園を造り出すことは、新興国に住む人々のウェルビーイングを向上させ、持続可能な都市化を支持するだけでなく日本という国に対する関心を高める。それが最終的には日本への観光客の集客や日本文化への注目につながり、そこから経済効果を期待することができる。

 

5. 最後に
 新型コロナパンデミックで海外旅行が遠いものになってしまった今、都市の中で外国にいる気分を味わえたら楽しいし、高齢者も安心して旅行体験ができるのではないかというアイデアからこの提案が生まれた。新型コロナウイルスが収束し海外旅行が可能になったとしても、このアイデアは年齢的、身体的、金銭的に海外旅行をすることが難しい人々に他国の文化を身近に感じられる機会を提供するという点で大きな意味を持つと考えられる。私自身もアイデアを膨らませていく中で、都市緑化の多種多様なメリットに気づくことができた。新型コロナパンデミック、気候変動、高齢化など様々な問題が山積する日本には、大規模な都市緑化による新しい取り組みが必要なのではないだろうか。

 

レポートの要約
 新型コロナウイルスや高齢化の影響で人々が思うように海外旅行ができないという現状を踏まえて、日本の都市圏のビルの屋上やバルコニーに世界中の国々をテーマにした庭園(グローバルガーデン)を創り出すことを提案する。さらに、新興国を中心に急速に進む都市化の流れに乗っ取って、世界中の都市に日本庭園(屋上日本庭園)を創り出すことも提案する。建物緑化により都市に住む人々のウェルビーイングの向上や、ヒートアイランド現象、気候変動の緩和といった効果が期待できる。加えて庭園の管理に高齢者を積極的に採用することで、高齢者の社会的孤立を防いだり、全ての人々に海外旅行をしているような楽しさを提供したりすることができる。屋上日本庭園を造ることにより、日本への国際的注目が高まり経済効果も見込める。

 

グローバルガーデンのイメージ
グローバルガーデンのイメージ
屋上日本庭園のイメージ
屋上日本庭園のイメージ

 

参考文献
1)内閣府「高齢化の現状と将来像」 (閲覧日:2021年8月20日)
2)国土交通省「令和元年 全国屋上・壁面緑化施行実績調査の結果」 (閲覧日:2021年9月8日)
3)United Nations, World Urbanization Prospects 2018 Highlights (閲覧日:2021年8月20日)
4)毎日新聞『枯れ山水に治水効果 防災対策の「雨庭」造りに期待も』 (閲覧日:2021年9月3日)
5)宮崎良文『森林浴― 心と体を癒す自然セラピー』 (出版日:2018年11月30日、pp.26-27)
6)同上(p.34)
7)気象庁「ヒートアイランド現象の原因は何ですか?」(閲覧日:2021年8月29日)
8)ポール・ホーケン『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』 (監訳:江守正多、訳:東出顕子、出版日:2020年12月19日、p.127)
9)海外の日本庭園「はじめに」 (閲覧日:2021年8月31日)

 


 

 

【大学生の部】

 最優秀賞

 

環境春闘 -子どもと大人の本気交渉 で、地域を動かす-

東京都立大学 都市環境学部 建築学科

塚原 彩

【概要】
 環境春闘を、毎年3月に開催していきたい。環境春闘とは、地元の小中学生が地域企業や行政に対し、来年度のCO₂排出量の具体的な削減値を提示したり、地球にやさしい行動を提案したりして、責任を持って実行するよう交渉する新しいイベントである。
 大人たちは、子どもたちの未来に対し責任を負っている。子どもたちも、「誰かが、もしくは技術が解決してくれるから大丈夫」ではなく主体的に課題に向き合っていくべきである。環境春闘は、両者の意識変革を促し、同時に環境行動をも生みだすきっかけとなるだろう。
 “子どもと大人の交渉”という構図を春闘に見立て、地域じゅうを巻き込んだ面白いイベントとして、誰もが当たり前に未来と向き合い続けられる場をつくりたい。

 

1. 背景
1-1 脱炭素社会を目指す現在の傾向
 今年8月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は地球温暖化に関する報告書の中で、地球温暖化の原因が人間の活動によるものだと断定した¹⁾。地球への負荷を減らすことは世界共通の課題である。日本国内に目を向けても、昨年10⽉、菅内閣によって2050年のカーボンニュートラル実現が宣言され、それ以降俄かに「脱炭素社会」や「SDGs」という言葉を耳にする機会が増えた。加えて脱炭素には経済成長の余地が大いにあることから、社会全体が今、大きく舵を切っているように思う。
 カーボンニュートラル実現に向け、今年6月の「国・地方脱炭素実現会議」で『地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~』が決定された。自治体が中心となって行う7つの取り組み内容のうち5つが、技術を応用した再生可能エネルギーの活用やエネルギーマネジメントに関するものとなっている²⁾。
 私の所属する研究室では、エネルギー消費量削減やファシリティマネジメントなどを高層のオフィスビル中心に研究しており、BIMを使った建物管理や省エネで快適な空調設備の導入、建物ファサードに関する分析などが行われている。このように、最新技術を活用した環境問題へのアプローチは数多くあり、大学での学びの中でよりそれらを身近に感じるようになった。

 

1-2 意識変革の重要性
 しかしながら、持続可能な社会の実現に向けて技術開発が加速することは非常に重要であると承知している一方、それを中心に見据えていて本当に良いのだろうかと度々疑問に感じる。例えばZEBやZEHを増やしていったとしても、その建物のオーナーや利用者の「建物のポテンシャルを最大限生かして大切に使おう」「長持ちするようしっかりと管理しよう」という意識が薄いままでは、“建物を使い捨てる”スクラップアンドビルドからは抜け出せず、せっかくの技術が無駄になってしまう。このように、技術開発だけが進歩し私たちの意識変革が進まなかった場合、脱炭素市場の魅力がなくなったなどの理由で再び環境破壊が進み、同じ過ちを繰り返しかねない。それでは持続可能な社会は実現しないだろう。

 

1-3 私たちに欠如している意識は何か
 とはいえ、環境問題に取り組もうとする意識(以下環境意識)は、東日本大震災以降の「節電」の浸透や子どもたちへの環境教育、レジ袋の有料化などにより少しずつ醸成されてきている。だが、環境問題に対する漠然とした不安を抱える人は多くても、危機感を持ち、やりがいを感じつつ行動に移している人は、おそらくさほど多くないだろう。悪気なく環境配慮のなされていない商品を買ってしまったり、食べ残しを出してしまったりということは、私にも身に覚えがある。つまり、環境意識の問題点は、自分の1つひとつの行動に責任を感じづらいという点にあるのではないか。
 なぜ責任感が欠如するのか、その理由の1つが岩井克人著『未来世代への責任』に示されている³⁾。岩井氏は、地球温暖化が深刻なのは「未来世代を取り巻く自然環境が現在世代によって一方的に破壊されてしまうから」だと述べている。現代を生きる私たちに対し、切実に環境問題の解決を訴えたいのはこれから生まれてくる未来の人々のはずだが、彼らは「まだこの世に存在していない人間」であるから自分たちの未来に対する権利を主張することができない。従って私たちは、本当は未来の人々に対し責任を負っているにもかかわらず、その責任を感じることができないのである。

 

2. 提案:「環境春闘」の開催
2-1 環境春闘の概要
 以上のように、私は持続可能な社会を実現するためには、技術開発と同時に私たちが環境意識を持つことが必要で、その中でも特に「未来の人々に対する責任」を当然のこととして感じるべきではないかと考える。それを、より多くの人を巻き込んだイベントの開催を通して実現してしまおうというのが、今回提案する「環境春闘」である。
 環境春闘とは、子どもたちが未来の人々の代弁者となり、大人たちに対して環境問題に取り組むよう交渉するイベントだ。その流れを以下に説明する。(添付の図も参照)
 舞台をある1地域に設定する。参加者は地域内の小中学校に通う子どもたちと、同じ地域内に本社のある企業や役所で働く大人たちである。複数企業が参加すれば、より影響力が大きく、また盛り上がるイベントにできるだろう。
 毎年1月頃、子どもたちは地域内の企業や役所を見学し、どのような仕事をしているのか、環境問題にどう取り組んでいるのかを学ぶ。同時に、どのような取り組みが環境問題の解決につながるのかも学んでいく。
 それらを踏まえ、2月頃子どもたちは、大人に何を訴えるか、また来年度企業にどのような取り組みをしてもらいたいか、例えば再生可能エネルギーの導入割合やCO₂排出量の削減値、地球にやさしい行動などを具体的に考える。そして、それをもとにプレゼンテーション資料の作成や発表練習を進める。
 春闘は3月に開催され、地域住民など誰もが聴講できるオープンなイベントとする。子どもたちのプレゼンテーションや、それに対する大人たちの返答、現実的な交渉が繰り広げられ、子どもと大人の間で来年度の環境行動を約束して閉会する。一方的に企業や行政が責任を負うわけではなく、子どもたちも、例えば企業の活動を地域新聞として発行するなど協力を約束する。
 ここで、約束の内容は「環境問題の解決に向けて努力する」といった漠然としたものではなく、具体的に数値や行動内容を挙げることが重要になる。

 

2-2 環境春闘のメリット
 このイベントを開催することにより、声なき未来の人々の要求が、最も彼らに近い存在である子どもたちによって訴えられるため、私たち大人にとって責任を負うべき対象が明確になり環境行動へとつながりやすくなる。聴講者がいることで、交わした約束も守られやすい。また、オンラインでもリアルでも、どの地域でも開催可能である。それだけでなく、小中学校・生徒・地域企業・開催地域それぞれに以下のようなメリットもある。
<小中学校のメリット>
・環境教育に加え、社会学習、地域学習、プレゼンテーション能力など、いろいろな教育を兼ねることができる。
<生徒たちのメリット>
・将来自分たちが環境問題に取り組む負担や自然災害のリスクの軽減につながる
・学校内だけに閉じず、世間にインパクトを与えるという成功体験ができるため、やりがいや自信が生まれる
<地域企業のメリット>
・法整備によって“やらされる”環境行動から、“子どもたちのためにやる”行動へと意識が変わり、やりがいを感じられる
・企業イメージの向上
・過疎化が進む地域では、子どもたちとの交流を深めることで将来の働き手の確保が期待できる
<開催地域のメリット>
・コミュニティのさらなる活性化

 

3. おわりに:私が描くグリーン・フューチャー
 環境問題は、持続可能な社会を目指すうえでどんな立場の人でも向き合うべき課題である。それを踏まえ、私は以下に示す、従来の3つの価値観を変えていきたい。
① 自分には関係ない、または自分が行動してもどうにもならないという考え方
② 技術の進歩が解決してくれるという考え方
③ 法律があるから、社会の目があるから“取り組まされる”という考え方
 環境春闘の開催により、企業側は「今目の前にいる子どもたちのために」課題に取り組めるようになるため、③から脱却できる。一方、子どもたちや地域住民は今どんな取り組みが行われているのか、解像度を上げて把握しやすくなる。
 学校・企業・行政の利害関係が一致し、環境春闘を毎年開催できるようになれば、一般の人の間に環境意識が定着し、企業の取り組みを正しく評価・応援できるようになる。そうなれば企業にとって環境問題に取り組むメリットがより大きくなり、さらに取り組みが加速する。その地域独自の取り組みや新しいコミュニティが生まれていく可能性もある。
 いきなりCO₂排出量ゼロや水素技術の導入など革新的なことを要請する必要はない。ただ、環境問題を誰のために解決するのか明確にし、また多くの人のなかに主体性を定着させていくことで、確実に環境負荷軽減の方向に向かっていくことができる。
 環境問題は、企業や行政による技術開発・導入だけでも、個人の頑張りだけでも解決できない。環境春闘を、専門知識と日常生活の、また立場の違う人どうしの橋渡しとして用い、“小規模相互応援型の課題解決”というグリーン・フューチャーを、ぜひ日本のスタンダードにしたい。

 

【参考文献】
1) NHKニュース.“地球温暖化の原因は人間の活動と初めて断定 国連IPCCが報告書”,NHK.,(参照 2021年9月4日)
2) 地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~.国・地方脱炭素実現会議,2021,p.5-8.,(参照 2021年9月4日)
3) 未来世代への責任.岩井克人.朝日新聞.2001年8月3日,夕刊.

 


 

 

 優秀賞

 

行動を通じた都市への投資:GB ポイントファンディングの提案

お茶の水女子大学・人間文化創成科学研究科

高田 亜弥

【概要】
 グリーンビル(以下GB)推進に向けて、本稿では既存建物のあり方に着目した。2009年から現在にかけてLEED認証取得件数は3件から196件へ順調に増加する一方、既存建物での取得は伸び悩んでいる(1(2。この原因として、既存建物は元々の環境性能が低いものが多く、改修を行っても新築建物と比較し良い認証を得難く市場価値も高めにくいことがあると考えた。ここから、既存建築でGBを推進するためには、取り組みの成果である認証取得のみならず、GBに向けたプロセスへの評価や支援が必要だと考えた。
 「GBポイントファンディング」は、建物の管理者と利用者が目標を共有し、影響を及ぼし合いながらGBの推進を目指すシステムである。管理者はLEED認証や建物の機能向上に向けた目標を提示し、利用者は日々の行動を通じて貯めた「GBポイント」の「投資」や、取り組みへ提言を通じて建物の運営を支援する。管理者と利用者が共に建物・地域の運営に携わることで、持続可能かつ愛着を持って過ごせる都市を実現したいと考え、本システムを提案する。

 

【背景】
 人々が建物や都市に求める機能は社会情勢の移り変わりと共に変化してきた。その動きは人や物が集まる都市部で特に顕著である。戦後、都市部は焼け野原から市街地、そして高層ビル街へと急速な発展を遂げ、人口も大幅に増加した(3。これに伴って生まれた大量のニーズに応えるため、都心部から郊外へと開発の波は広がっていった。しかし、近年全国的に進む人口減少により、こうした都市の発展・拡大には歯止めがかかりつつある。日本全体の人口は2008年に既にピークを迎え、現在人口増加傾向にある東京都も、2025年には減少に転じることが予測されている(3
 また、COVID-19拡大に伴う生活様式の変化は、都市のあり方に新たな視点をもたらした。感染拡大防止対策として人流抑制が求められ、これまで都心部に一極集中していた機能を分散する取り組みがなされた。中でも人々の生活へ特に大きな影響を与えたのが、テレワークを始めとする働き方の変化だ。従来、多くのオフィスワーカーは既定の時間に出勤・退勤し、一日の大半をオフィスやオフィス街で過ごしていた。そのため、生活圏は通勤地へのアクセスを考慮して決められ、自宅は主に休息の場として機能していた。しかし、COVID-19に伴うテレワークやフレックスタイム制の導入により、この住宅—オフィスの関係は大きく変化した。出社頻度の低下や時間的な制限の緩和により、居住可能な地域が大幅に広がった。加えて、在宅時間が長くなったことで、より充実した住環境を求める人の数が増加した。地方都市への移住を検討する動き(4も、こうした住まいに対する価値観の変化を汲んだものと推測できる。
 働く場についてオフィス以外の選択肢が広がったことで、オフィスには「わざわざ出勤する意味がある場所」、すなわち働く場としての質的な充実がより求められるようになった。人々の空間に対する意識が変化していく中で、今後はオフィス以外の場所、例えば商業施設や都市全体に対しても、従来の経済的合理性を中心に据えた空間の使い方から、快適性や居心地の良さなど利用価値の高さを重視した使い方へと移り変わっていくことが予想できる。これに伴い、建物の価値の測定には、耐震性などのハード面に加え、空間の質的価値=ソフト面への評価の重要性が高まっていくのではないかと考えた。
 こうした国内の人口・社会情勢への対応、また全世界的な目標であるSDGsの達成に向け、健康で豊かなビルト・エンバイロメントを目指すGBの視点は、今後ますます重要になると考える。現在、日本のLEED取得件数は世界第22位(2016年3月30日時点)と先進国の中ではやや少なく(5、GBの積極的な導入や認証取得に向けた更なる取り組みが必要だと感じた。
 国内でのGB推進を考えるうえで、特にLEED O+Mを始めとした既存建物の運用・管理に着目した。現在日本で使用されている建物の中には、老朽化や耐震性などのハード面に加え、環境性能や健康性能に課題を抱えるものが少なくない。また、人口減少に伴って都市の規模が縮小していくことを考えると、今後新しい建物が大量に必要となるとは考えにくい。日本全体として成果をあげるためには、新たに環境・健康性能を満たす建物を作ることも重要だが、既存建物の活用にもより力を入れる必要があると考えた。
 日本のLEED取得物件は年々増加しているものの、LEED BDCやLEED IDCの割合が高く、既存建物の運用・管理を評価するLEED O+Mは累計28件と少ない(2。この理由として、既存建物の改修は新築物件での取得と比較し、費用対効果が十分得られないことがあるのではないかと考えた。竣工時から性能評価を見込んで作られる新築建物と異なり、既存建物は認証取得に向けたデータ測定に必要なシステムを備えていないものも多い。また、竣工から長時間経った建物は、管理者の変更などで図面や設備などの基本的な資料の収集にも手間がかかる可能性がある。こうした準備面に加え、改修自体にも計画の立案や効果の測定・検証などが必要である。
 優れた認証の取得は目標とするべきだが、GB本来の目的に立ち戻ると、取り組みの本筋は建物の環境・健康性能を客観的に評価し、建物のより良いライフサイクルの実現に向けて長期的な見通しを立てる点にあると考える。しかし現在、市場ではGBの取り組みに対して認証の有無という二元論的な判断が主流であり、認証取得に向けた取り組みの過程やその価値を評価する文脈は十分浸透していない。また、折角環境・健康に配慮した改修を行っても、使用者の意識が不十分であったり、利用実態と沿ってなかったりする場合、その性能を十分に発揮できない恐れがある。近年、ESG投資を始めサスティナブルな取り組みに対する関心は高まりつつあるが、GBの認知は建設業界や一部の投資家に留まり、都市住民の理解は未だ十分に広がっていないと感じる。
 都市で生活する多くの人々にGBへの理解と参画を促し、GBに向けた取り組みを更に推進するため、私は以下の「GBポイントファンディング」を提案する。

 

【提案概要】

 「GBポイントファンディング」とは、GB推進に有効な行動した都市生活者へ「GBポイント」を付与し、都市生活者がそのポイントをGBに取り組んでいる建物へ「投資」することで、建物管理者・都市生活者双方がインセンティブを得られるシステムである。

 以下、提案の詳細を示す。

このサービスは、①建物管理者②利用者(都市生活者)③行政の3軸からなる(図1)。

 

図1_「GBポイントファンディング」システム全体像
図1_「GBポイントファンディング」システム全体像

① 地区・建物の管理者(図2)
LEED・WELL認証などを参照に導入する設備やシステムの目標立て、所属する自治体に対して申請を行う。目標や自治体からの情報を元に、具体的な取り組み内容を「GBポイントファンディング」の自団体プラットフォームに提示し、利用者対して好ましいプランに対する投票や「GBポイント」を用いた「投資」を呼び掛ける。「投資」ポイント数が規定値に到達し次第、所属する自治体の行政に対して申告を行い、設備やシステムを実際に導入する。導入後は利用実態や設備の稼働状況、アンケートを通じた利用者からのフィードバックを参考に、今後の更なる改善に向けた施策の指針を得る。

 

図2_管理者の役割詳細例
図2_管理者の役割詳細例

② 利用者
既定のアプリケーションをインストールし、「GBポイント」を用いた意思表示によって建物のGB推進を支援する。「GBポイント」とは、利用者が①環境負荷低減やLEEDなどの認証取得に貢献する行動②GBを進める建物への訪問③アンケート調査への回答を行った際などに得られるものである。利用者は獲得したポイントを用いて管理者が提示する設備・サービスに対して投票を行ったり、「投資」をしたりすることが可能である。「投資」とは、獲得した「GBポイント」を消費して建物の改修などを支援する仕組みのことを指す。提案が実現した際、利用者は「投資」したポイント数に応じてインセンティブを得ることができる。
また、建物ごとに訪問回数がカウントされ、利用頻度の高い建物ではアンケート調査の際、投票回数などの
優遇を受けられる。
③ 行政
GB推進に向けた予算の確保し、改修による効果と必要経費を元に設備・サービス導入に必要な「GBポイント」数の設定を行う。管理者からポイント達成の申請があった場合には、審査と既定の予算配分を行うほか、取り組みの進捗状況や申請通りに改修が行われているかを監査する。
また、地域誌などの広報機能を通じた情報提供を行い、地域全体としての取り組みの方針を示す。建物を横断する広報機能と俯瞰的な視点からの改修・認証取得の支援により、地域全体へGBに則った建物の広い浸透を目指す。

 

【特長】

 このシステムの特長として、大きく以下の二点が挙げられる。
 一点目は、実態に沿った改修が行いやすくなり、費用対効果が高まることだ。利用頻度の高い使用者の声を反映することで、各建物により適した設備やシステムを導入しやすくなると考える。
 株やクラウドファンディングを始め、建物への投資は一般的に金銭を通じて行われる。建物のハードを長期的に運用していくためには、経験豊富な投資家による俯瞰的な視点からの支援は重要である。その一方で、こうした投資は建物を管理し価値を維持することに重きを置く傾向が強く、利用者としての視点——例えば居心地の良さや使いやすさなど——が十分に反映されにくい可能性がある。改修の効果を最大限に発揮するためには、優れた設備やサービスを組み込むことと同じ程度に、それらが有効的に活用されることも重要である。利用者の行動や訪問頻度をポイント化し投資の枠組みに組み込むことで、収益の見込めない設備を導入してしまうリスクの低減や、より満足度・利用率の高い施策の実現が可能になる。
 また、利用者の声を反映するシステムの整備は、建物や地域の付加価値向上にも有効だと考える。日々の継続的な行動やポイントでの「投資」を通じて利用する建物・地域へ愛着がわき、それがGBに向けた更なる行動の促進に繋がるのではないだろうか。この「GBファンディング」システムを通じて管理者・利用者双方が影響を及ぼしあうことで、建物・都市全体としてより費用対効果の高い施策の実現が可能になると考える。
 二点目は、導入事例の増加によって感覚的な要素が定量化されることだ。
 GBに向けた取り組みには「持続可能な環境」と「生活の質の向上」が目標とされている。このうち、「環境」に関しては客観的に測定できる項目が多く、取るべき施策が比較的明確である。一方、「生活の質」については個々人の感覚による差が大きく、具体的な取り組みの見通しが立ちにくい。照度や温熱環境、印象評価をもとにした指標の策定も進んでいるが、実際の建物での検証は未だ十分でなく、今後推進していく必要がある。
 「GBポイントファンディング」は、利用者側からのアクションを通じて施策に対する評価が明示される。これにより、従来測定が困難だった項目についても、取り組むべき方向性のヒントが得られやすいと考える。改修に向けた提案やそのフィードバックを蓄積することで、利用者が好む環境の傾向の把握や、快適性などを測定する実践的な指標の獲得も見込まれる。建物を横断するデータベースにより有効性の高い取り組みを明らかすることは、新たな建物・都市がGBへと参入する際の障壁を下げ、導入を促進することにも繋がり得ると考えた。

 現在、SDGsをはじめとした長期的な指針が示され、世界全体で持続可能な社会を実現に向けた取り組みが加速している。建築・都市分野においても、LEED認証やWELL認証など目標を達成する具体的な手だてが示され、材料、構造、熱環境……と様々な分野でGBを実現するための研究が進んでいる。
 そうした素材や工夫の最も有効的に活用していくためには、行政や建築業界だけでなく、都市の構成員である私たち一人一人の理解と積極的な参画が必要不可欠である。「GBポイントファンディング」を通じてより広い属性の人々にGBの考え方を広げ、建物と人が双方に影響を及ぼしあいながら共に持続可能な都市を作り上げる社会を実現したい。

 

【参考資料】(全て2021年9月6日に最終閲覧)
1) 一般社団法人グリーンビルディングジャパン, 「GBJブックレット2021 v.1」, p02, 2021
2) USGBC, Country market briefs, Country market brief (Japan), 2021
3) 東京都政策企画局,「2060年までの東京の推計」, p344-345, 2015
4) 内閣府,「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」,2020
5) 平松宏城,「都市持続性評価ツールに関するワークショップ 日本におけるLEED等の展開について」, p02

 


 

 

 奨励賞

 

木の国の「宝の山」を未来へ

芝浦工業大学・システム理工学部・環境システム学科・澤田研究室

武藤 綺羅

1.はじめに
 日本は国土の3分の2を森林に覆われた世界有数の森林国である。古来より私たちは、その森林から切り出した木材を建築や生活用品に用いることで気候風土に対応した豊かな暮らしを実現し、「木材文化」を育んできた。木材は、使い方次第で200年以上使うことができるほどの強度や、経年劣化による独特の雰囲気など、魅力的な側面を複数持つ自然素材であり、日本の「宝」といっても過言ではない。そして今年開催された東京オリンピックのメインスタジアムでは、日本全国から集まった木材が用いられ、その魅力や日本の木材文化を世界中に発信した。
 一方で、空き家となったまま放置された木造住宅が増えていたり、放置状態になった森林が近年増加したりしている。そのことは外部不経済の発生や土地利用の非効率化、土砂災害の発生に直結している。木材を豊富に蓄えた木造の空き家や森林は、私たちにとって最も身近な、まさしく「宝の山」だといえるのではないか。私たちはみすみすそれを無駄にしている。世界から日本の木材文化に注目が集まる今こそ、世界をリードする木材文化を有する国を目指して、空き家や森林の木材利用に新たな価値を見出し、「宝の山」の活かし方を考えるべきではないだろうか。
 本提案では空き家の木材をグリーンビルのルーバーや間仕切りなどに利活用することで、魅力的な木空間を創出すると同時に、グリーンビルの環境性能向上を行う。これにより空き家の市場価値と国産木材の需要を創出し、空き家問題の解決・グリーンビルの社会浸透の促進・森林環境の保護・農林水産業へのフィードバックなど、諸問題の同時解決を目指す。

 

2.現状分析
2—1.空き家の現状分析
 現在、空き家は全国的に広がり、その分布は地方に多いイメージがあるが、実際は大都市圏に多く集中している。空き家所有者の今後の空き家の利用意向調査では「売却や利活用」に関心があることが読み取れるが(図1)、空き家の売却および利活用は進んでおらず、空き家の数は年々増加している(図2)。空き家の利活用が進まない理由は少子高齢化による後継者の不在など様々であるが、「空き家に市場性がない」ことが要因の一つではないだろうか。つまり、「二束三文で売るくらいなら、持ったままにしておいたほうがいい」と考える人が少なからずいるのではないかと考える。

図1_空き家の今後の利用意向
図1_空き家の今後の利用意向
図2_空き家数及び空き家率の推移全国
図2_空き家数及び空き家率の推移全国

 

2—2.日本の木材利用・森林環境の現状分析
 日本の木材自給率は他国に比べて低く(図3)、平成12年から増加傾向にあるものの令和元年の木材自給率は37.8%にとどまった(図4)。なぜ豊かな森林率を有しているにもかかわらず、木材自給率が低いのか。その理由は、安い外国産の木材におされ、国内の樹木を切り出すに至らない、あるいは林業の担い手が足りないなど、木を切ることが出来ない状況が続くこと、またそうしているうちに伐採時期が過ぎ、木を切りだすことが出来なくなる、または格安で取引される恐れから、森林が放置される悪循環が起きているということである。また、放置され木や草が伸び放題の森林は、地表に十分に太陽が届かず、光合成や腐葉土の生成などの自然のシステムが崩壊する。そしてその結果、農林水産業への打撃や生態系が破壊され、土砂災害の発生が引き起こされる。それらの問題を回避するために、国産木材の安定した需要の創出が必要であると考える。

図3_世界の森林率と木材自給率
図3_世界の森林率と木材自給率
図4_木材自給率及び木材自給率の推移
図4_木材自給率及び木材自給率の推移

 

3.課題抽出・提案
 本稿では「空き家の市場価値の創出」と「国産木材の安定した需要の創出」のふたつを目的とした、「空き家木材および国産木材の活用によるグリーンビルの木空間づくり並びに環境性能向上」を提案する。本提案は放置状態となった「宝の山(空き家・森林)」の利用に「環境貢献」という新たな価値を付与することである。これにより日本が世界をリードする「木材活用による環境貢献」文化を有する国となることが期待される。(図5)詳しい提案は以下のとおりである。
 大都市圏のグリーンビルを対象として、外装・内装空間に空き家木材を活用することで魅力的な空間づくりと環境性能向上を行う。これにより「空き家木材活用ビル」という新たなブランド性を確立し、空き家の市場価値を創出する。同時に、空間づくりの際、空き家木材で賄いきれなかった部分に国産木材を用いることで国産木材の安定した需要を創出する。(図6)

図5_本提案の問題意識と最終目的
図5_本提案の問題意識と最終目的
図6_本提案のフロー
図6_本提案のフロー

 

4.提案イメージ
 グリーンビルの具体例を挙げ、提案イメージを広げることで、提案に具体性と整合性を持たせるために、ここでは架空の空き家を想定する。
 空き家の想定は、建築面積75㎡、延べ床面積125㎡の軸組工法2階建ての木造住宅とし(以下「想定住宅」という)、使用する部材は主に、土台、柱、桁、梁、胴差、小屋組みとした。想定住宅では、土台から寸法120×120のヒノキが約1m³、柱から寸法120×120のスギが約2.2m³、桁・梁・胴差から寸法120×180、120×240、120×300、120×360のベイマツが合わせて約7m³、小屋組みから寸法120×120、120×300のベイマツが合わせて約1m³と、45×105@455のベイマツが約1m³、回収できる。これらの回収した木材を用い、2021年5月27日にLEED認証のプラチナランクを取得した「順天堂大学 New Research Building」(以下「順天堂大学」という)を具体例に挙げ、提案イメージを構想する。
 まず、土台・柱から回収したヒノキとスギは鉛直荷重を支える特性があるためガラス間仕切りのフレームとして用いることができるだろう。(図7)順天堂大学では会議室や講堂などにガラス間仕切りが多く用いられている。これによって差し込む陽光や照明が少なくてもフロア全体が明るく照らされる。同時に、空間の気積がガラス間仕切りにより小さく抑えられるので空調の効率があがり、省エネルギーを実現している。空き家木材はこれらのガラスの間仕切りに表情を持たせ、木の温かみを感じる空間を創出する。順天堂大学の3階層である研究センターに使用されるガラス間仕切りのフレームには、最低でも約1.3m³の木材が必要になると予想され、順天堂大学の11階層すべてのフロアで同様に木質化を行うとすると、空き家1軒から回収した木材では足りないので、約11m³分は国産木材を用いることになる。
 次に、桁・梁・胴差から回収したベイマツはせん断強度があり横使いに適しているため、天井ルーバーとして用いることができるだろう。(図8)天井ルーバーは建築内の風の流れを操り、より効率的な空調の循環を促す。順天堂大学1階層のホワイエ・講堂に使用される天井ルーバーには、最低でも約12m³の木材が必要になると予想され、空き家1軒から回収した木材では足りないので、約5m³分は国産木材を用いることになる。
最後に小屋組みは、細いが曲げ耐力が大きいため、外装ルーバーまたは、手すりとして用いることができるだろう。(図9)外装ルーバーは、昼光を室内に取り込み、省エネルギーに貢献する。また、空き家木材の経年劣化による独特の雰囲気は、触れる人々に金属のルーバー・手すりでは得られない温かみや、安らぎを与える。そうして日常的に空き家木材と人が触れ合うことになり、木材が刻んできた時・歴史に思いをはせる空間にもなる。その際、1フロアのみでも約1.1m³分の木材が必要になると予想されるので、順天堂大学の11階層すべてのフロアで同様に木質化を行うとすると、約10m³分は国産木材を用いることになる。
 このように空き家木材によるグリーンビルの空間づくりは多彩で魅力的な木空間を創出し、グリーンビルの環境性能向上の一助となる。また、ここでは回収した木材の中に断面欠損や損傷、腐朽によって再利用ができない木材がある可能性を考慮していない。しかし、空き家木材は魅力的な木材であり、国産木材がその不足分を補うことで、古い木材と新しい木材が融合した、新しい建築物として次世代に引き継ぐことが出来る。つまり、グリーンビルで空き家木材を用いることは、単に環境にやさしいというだけにとどまらず、そのままでは朽ちていってしまう空き家を木材として、新しい国産木材と組み合わせることで未来へその魅力・歴史を繋げることが出来るのである。

図7_土台・柱木材の利活用イメージ
図7_土台・柱木材の利活用イメージ
図8_桁・梁・胴差木材の利活用イメージ
図8_桁・梁・胴差木材の利活用イメージ
図9_小屋組み木材の利活用イメージ
図9_小屋組み木材の利活用イメージ

 

5.ストーリー
 大都市圏のグリーンビルにおける外装・内装空間での空き家の木材活用は、多彩で魅力的な木空間を創出し、グリーンビルの環境性能向上の一助となるだけでなく、段階的に諸問題の解決につながっていく。
フェーズ1 グリーンビルの環境貢献
 空き家木材の中には、防腐処理・防蟻処理された木材が多数含まれ、これらは燃やすことも埋め立てることもできないため、利活用されなければ「産業廃棄物」扱いになってしまう。本提案で空き家木材の利活用の場を創出することは「廃材」の存在や、その処理の問題をクリーンにすることができる。また本提案では、まちなかの空き家から木材を回収し、まちなかのグリーンビルで利活用するため、木材輸送で発生するCO₂量を削減することが出来る。同様に、国産木材の使用は、船舶などを主な輸送手段とする輸入木材の使用よりもエネルギーやCO₂排出量を削減できる。さらに、建築で空き家木材を利用することは、空気中の温室効果ガスの長期固定により地球温暖化防止に貢献することが可能である。空き家木材をグリーンビルで利活用し「燃やさずに使い続ける」こと自体が環境貢献になりうる。
フェーズ2 グリーンビルの社会浸透
 グリーンビルとは、エネルギーや水循環、空調設備などにより環境性能の高い建物のことである。建物の機能面やシステムのデザインだけでは、一般の人はその建物を一目で「グリーンビルである」と判断しづらい。しかし、グリーンビルが空き家木材活用を進めることで、空き家木材が活用されたビルは「環境貢献に取り組んでいるビル」だとアピールでき、そういった建築がまちなかで増えることで、すべての人がグリーンビルに目を向けるようになり、広く社会に浸透していく一助となる。
フェーズ3 空き家の市場価値向上
 空き家の木材を活用することは、人々に「環境貢献に取り組んでいる」ことをアピールできる。持続可能な社会を目指す現代において、それは一種のステータスとなる。するとさらに空き家の木材利用に着手する事業が増加するだろう。これによって空き家に需要が生まれ、市場価値が向上し、空き家所有者が空き家を売却する後押しとなる。こうした空き家の売却・利活用が進むことで、空き家問題の解決が期待できる。
フェーズ4 国産木材の安定した需要創出
 空き家の木材利用に着手する事業が増加することで、空き家木材で賄いきれない不足分に使用される国産木材の需要もまた増加し、安定した需要の創出が期待できる。また国産木材が建築材料として利用されることは、その建築物を訪れる大勢の人が、国産木材の温かみや長期健全などの良さ再発見するきっかけとなる。このきっかけが国産木材の新規顧客開拓につながり、さらなる需要創出につながっていく。
フェーズ5 森林環境保全・農林水産業へのフィードバック
 国産木材の需要が創出されることによって、管理放棄された森林に再び人の手が入り、整備が進む。林業が活性化するだけでなく、森林の循環システムが正常に保たれるようになる。これにより、防災の面からも、農林水産業の面からも、未来への展望がひらける。

 

6おわりに
 前述した通り、日本は世界有数の森林国である。古来より日本人は木とともに生きてきた。その日本ができる環境貢献の形、その究極形態が、空き家木材を利活用したグリーンビルであると考える。
本提案が実現することで、日本の街並みは、様々な構造の建築物が共存する現在の雑多な姿から、木材の美しさが輝き統一感のある姿へと生まれ変わるだろう。また、グリーンビルで空き家木材が積み重ねてきた時や歴史を感じる中で、ひとりひとりが日々の生活の中で地球環境に思いをはせることができれば、日本の都市の持続可能性は確実に向上するだろう。
 私たちは今一度、日本の「宝」である木材の価値や活かし方を見直すべきである。日本は世界最古の木造建築群といわれる法隆寺を国宝とし、それ以外の「木材文化」も数千年に渡り引き継いできた。ここから、さらに私たちは空き家木材と国産木材を融合させることで新しい「木材文化」の歴史を紡いでいく。
 「宝の山」を活かすことで、日本が世界をリードする「木材活用による環境貢献」文化を有する国として、新しい扉を開いていくと信じている。

 

参考文献
1.『【図解】建築の構造と構法』
2.国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査』
3.総務省『令和元年(2019年)木材需給表』
4.FAO『STATE OF WORLD’S 2005』
5.林野庁『平成30年度版森林・林業白書』
6.順天堂大学画像https://www.juntendo.ac.jp/university/research/buiding_A_intro.html
          https://skyskysky.net/construction/202000-30.html

 


 

 

 奨励賞

 

コモン空間の拡大を起点とする豊かな都市の提案

東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系

小林 みなみ

1. はじめに
 ここ数年、SDGsやESG投資、脱炭素社会など、環境に配慮した取り組みに注目が集まっている。特に、ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる我々若者は、こうした環境問題に敏感であり、サステナブルな商品を購入する傾向や環境問題に取り組む企業を就職の選択肢に考える傾向がある。例えば、若者の支持を集めるインテリアショップのIKEAは、竹材や木材を使用したサステナブルな家具を販売し、「サステナブル」というワードを商品のプロモーションに使用している。また「22卒就活生の選社軸とSDGsの関係性」に関する調査[1]によると、コロナ禍で持続可能なビジネスモデルの必要性を実感した学生が多く、年々関心が高くなっている。私自身、現在就職活動をしていて、環境配慮の取り組みをアピールする企業が多いと感じる。
 しかし、矛盾していないだろうか。本来のSDGsの目的[2]は、「私たちの世界が直面する喫緊の環境、政治、経済の課題に取り組む一連の普遍的目標を策定すること」にあった。だが、現在の取り組みは名前だけが先行し、本来の目的が失われていると感じる。つまり、環境問題という大義名分のもと、新たなビジネスが展開され、本質的な環境問題の解決は疎かにされている。そして、環境に良さそうに見えるモノ・コトを我々消費者が選択するようになっているのではないだろうか。
本レポートでは、こうした時代の潮流に乗った環境配慮の提案ではなく、その本質的な豊かな未来に向けた提言を行う。

 

2. 都市の建築における現在の取り組み
2-1 日本の取り組み
 1990年頃から建築物の環境性能評価手法が開発され、1990年代後半以降、世界各国で評価ツールが開発されてきた。北米で生まれたLEED、日本で生まれたCASBEEの両ツールともに、現在の日本ではある程度浸透してきている[3]。
 グリーンビルの代表例である「アクロス福岡」では、屋上緑化により温熱環境の改善が試みられている。コンクリートを植栽で覆うことで、直接的に建物の表面温度を下げるだけでなく、ステップガーデンに傾斜をつけることで、放射冷却により冷やされた冷気が熱帯夜の都心に涼しい風を届けるといった周囲の環境改善という副次効果ももたらしている。加えて、当初植栽した樹種76種類が今は200種を越え、植生が豊かになる[4]など、都市の生物多様性への貢献、人々への安らぎの提供という役割も果たしている。
 日本におけるLEED登録件数・認証件数は海外と比較して未だ少ないものの、年々増加している。その背景には、グリーンビル実証実験の知見の蓄積や低炭素コンクリートや熱負荷を軽減する資材など環境負荷の少ない資材の開発、さらにグリーンビルへの不動産投資需要の高まりなどがある。環境配慮建築は増加しているが、果たして持続可能な未来はあるだろうか。環境負荷の低減はもちろんであるが、環境負荷の大きな負債を抱えている現状では、環境負荷ゼロもしくは環境にプラスに働く建築を生み出していかなければ、我々若者の未来がないと思う。

 

2-2 海外の取り組み
▪︎「ハイライン」ニューヨーク
ニューヨークの「ハイライン」では、廃止になった列車の線路から空中公園にコンバージョンされた。車通りの多いニューヨークでは、歩行者専用の道が少なかったが、「ハイライン」の整備により安全な歩行空間を生み出した。また、「アクロス福岡」同様に屋上緑化し、緑豊かに再構築することで自然のオアシスをもたらしている。日本では、環境負荷の少ない資材や技術を使って新たなグリーンビルを建設しようとする動きが多いが、海外では「ハイライン」のように、今すでにあるストックをどのように使いこなすかという視点が多い。
▪︎アーバン・ファーミング[図1]
日本では2022年問題と言われているように都市農地の宅地化、緑地の減少が大きな問題となっているが、海外では、積極的に都市に農地を作ろうという動きが起きている。フランス, パリでは、市内の屋上と壁面の合計100ヘクタール分を緑化する5カ年計画が進行中で、3分の1が農地利用である。
アーバン・ファーミングのメリットは、①都市中心部で生産するため、配送時のCO2排出量を削減できる②環境保護(太陽熱の有効活用、土壌の断熱効果を通じたビルの効率的な温度管理、気候変動による集中豪雨時の排水処理システムへの負担軽減)③将来的な食糧不足改善④都市住民のコミュニティ形成、など環境面だけでなく社会的な面にも効果をもたらす。
実際に、パリの名門料理学校「ル・コルドン・ブルー」では、雨水を活用した水やりや、調理場の排気熱を活用した地表面の温度管理、実習で出た生ゴミを肥料にする循環型農業が行われている。

 

図 1 アーバン・ファーミングの様子(出典:Brooklyn Grange,  https://www.brooklyngrangefarm.com/)
図 1 アーバン・ファーミングの様子(出典:Brooklyn Grange,  https://www.brooklyngrangefarm.com/)

 

3. コモン空間の拡大
 では、未来の都市はどうあるべきか?私は、コモン空間の拡大が重要になると考えている。目まぐるしい速さで変化し続ける現代において、ハードな建物を整備することは、社会的変化に対するフレキシビリティがなく、現実的でない。
 働く空間を例に挙げる。コロナの流行により、リモートワークが普及したことで、オフィスという大きなプライベート空間を所有する必要性が減少し、コワーキングスペースやカフェなど、その日の予定や気分に合わせて空間も自由に選択することが可能となった。
 このように、ある特定の人しか使えない空間よりも、空間をみんなで共有し、限られた資産を有効活用することで、より豊かでフレキシブルな暮らしを目指す時代にシフトしつつあるのではないか。すなわち、個人所有の閉ざされたプライベート空間ではなく、皆で作り、使い、管理し、運営していくコモン空間の拡大が重要となる。
次に、コモン空間の具体的な提案を述べる。

 

▪︎Newメタボリズム(テンポラリーな建築と社会実験)[図2]
 これからの社会には、時代変化に合わせたフレキシブルな都市空間(新陳代謝されていく都市空間)が求められる。そこで、朝は仕事をする空間、昼はカフェ、夜は居酒屋のような、1日の人々のライフスタイルに合わせて変化する空間や社会実験を繰り返しながら段階的に街をつくっていき、時代のニーズに合わせて可変性のある余白としてコモン空間を活用する。特に、こうした空間では、オフィスの中にあるデスクや不要になったソファーを持ち込むところからはじめ、空間に応じて、フードトラックなどの移動販売車や組み立て・解体が容易な屋台、持ち運びがしやすいコンテナなど、テンポラリーな仮設建築を組み合わせながらコモン空間を構成していく。
 こうしたテンポラリーな建築はハードな建築に比べて圧倒的に建設・維持にかかるCO2排出量が少なく、使われなくなった物も他の地域に移動して再利用が可能である。それだけでなく、自分たちの好きな空間、街を作り上げていく感覚を味わえる都市や時代変化に合わせた可変性のある都市は、生活の充実度を上げ、環境配慮だけでなく、人々の健康増進にもつながると考える。

図 2 New メタボリズム
図 2 New メタボリズム

 

▪︎セミプライベート空間・セミパブリック空間の拡充
 現在、世界的に車中心の社会から人中心の社会へと変化している。道路空間の活用や空地活用が見られるようになってきたが、未だに建物と建物外の空間、すなわちプライベート空間とパブリック空間が分断していると感じる。
 そこで、セミプライベート空間やセミパブリック空間の拡充を提案する。これにより、①人々のグリーンビルへの理解の広がり、②生活の充実による人々の健康増進、の2つの効果を得ることができる。
 海外に比べ普及率は低いものの、日本においてもグリーンビルは増加傾向にあり、関心が高まっている。しかし、表面上の緑化は見えるものの、そのほかに建物全体でどのような取り組みがなされているのか分かりづらい。セミプライベート空間やセミパブリック空間を拡充することで、取り組みを側から眺める立場から、こうしたシステムを利用する主体的な立場として環境問題に取り組むようになり、グリーンビルへの理解が深まると考える。
 また、建物の内外(区分)を曖昧にすることで、内側の要素が外側へ、外側の要素が内側へにじみ出し、人々が何かにチャレンジしたいと思った時に始めやすい小さなスケールでの都市の余白ができる。例えば、芸術が好きなIT企業に勤める社員が、週4日は企業で働き、週に1度、自身のデジタルアート作品を展示する個展を開く。今までは高額な会場を借りて年に1度しかできなかったため事業性を考えなければいけなかったが、より簡易に好きな場所にゲリラ的に好きなことに挑戦できる。こうした小さな活動が見え、連鎖することで、街に活気が生まれ、人々の生きがいにつながるのではないだろうか。

 

▪︎シェアエコノミー
 近年、カーシェアやシェアサイクル、シェアオフィスなど様々な分野でシェアが広がっている。CO2削減のために電気自動車が普及したり、LRTが導入されたりしているが、電気を生産する時、車の生産や路面整備にもCO2は排出されており、本当に持続可能な社会を見据えた取り組みなのか疑問である。CO2削減を目的に今ある資源を廃棄し、環境に良いものを新たに作るのではなく、長期的な視点で、持続可能な社会実現のために、今ある資源を皆で共有し有効活用していくことが重要ではないだろうか。

 

▪︎アーバン・ファーミング[図1]
 コモン空間の拡大にあたり、アーバン・ファーミングは大きな可能性を秘めていると感じる。建物を単に緑化するのでなく、農園にすることで、都市住民が参画できる空間となるからだ。こうした取り組みにより、皆で栽培し、空間を管理していく仕組みができ、環境問題を考えるきっかけに加え、サードプレイスとしての人々の心地良い居場所を提供することにも繋がる。
 懸念点としては、都市部に屋内の垂直型農業が広まりつつあることだ。効率的ではあるが、アーバン・ファーミングとしての緑化による熱負荷軽減や貯水機能、都市部のオアシスとしての心理的効果という大きな利点が失われてしまう。屋上や壁面、道路を一体的に農園として活用することで、持続可能な社会実現への環境改善と人々の健康増進という本来の目的を達成できるのではないだろうか。

 

4. まとめと展望[図3]
 海外では人々の暮らしの充実度すなわち人々の健康にも視点を置いてグリーンビルが考えられているが、日本では便利で快適な生活を維持したまま環境負荷を改善するための技術の開発に力が注がれてきた。コロナを機に我々のライフスタイルが見直され、豊かな暮らしとは何か考えさせられている今、環境負荷軽減のみに視点を置いた小手先の取り組みではなく、未来がより良くなるために都市がどのように人々の生活に貢献できるかを考えなければならない。コモン空間を充実させることで、環境問題を改善するとともに、人々がここで暮らしたいと思える豊かな未来が訪れることを願う。

 

図 3 コモン空間の拡大
図 3 コモン空間の拡大

5. 参考文献
1. 株式会社ベイニッチ. 「「22卒就活生の選社軸とSDGsの関係性」に関する調査」(参照2021.9.10)
2. 国連開発計画. 「持続可能な開発目標(SDGS)の背景」.  (参照2021.9.10)
3. 海藤俊介・横尾昇剛・岡建雄:H-4 建築物の環境性能評価手法に関する研究:その2 SBToolの概要と評価項目, 空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集, 2007年, 2007.1巻 H-4
4. ‎新建築2020年10月号. 新建築社, 2020/10/1

 


以上

 

 

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